私のVRChat体験記

アバターを通じた内面の変化:VRChatが映し出すもう一人の自分

Tags: VRChat, アバター, 自己認識, コミュニティ, 体験談, 人間関係

VRChatとの出会い、そしてアバターという問い

VRChatの世界へ足を踏み入れたのは、数年前のことになります。当時の私は、現実世界ではどちらかというと内向的で、新しい人間関係を築くことに苦手意識がありました。オンラインゲームやコミュニティには参加した経験がありましたが、アバターという明確な「外見」を持つことで、どのように他者と関わることになるのか、漠然とした不安と同時に好奇心も抱いていました。

初めてVRChatのホームワールドに降り立った時、目にした光景は衝撃的でした。様々な姿形をしたアバターが行き交い、楽しげに交流している様子は、これまでのオンライン空間とは一線を画していました。そして、自分自身が「どのような姿でこの世界に存在するか」という、アバター選択の最初の問いに直面しました。

最初の選択と、戸惑い

最初のうちは、既成のパブリックアバターの中から、特に深く考えずに一つを選びました。現実の自分とは似ても似つかない、ファンタジー系のキャラクターアバターでした。そのアバターでフレンドと会話をしたり、様々なワールドを訪れたりするうちに、あることに気づきました。そのアバターの見た目に引っ張られるように、普段の自分よりも少し明るく、開放的な振る舞いになっている自分がいるのです。

しかし、同時に違和感もありました。そのアバターは魅力的でしたが、「自分自身」という感覚が薄く、どこか借り物の服を着ているような感覚が拭えませんでした。特に、深い話をする際や、自分の考えを伝えたい時に、アバターと内面との間に齟齬を感じることがありました。

この経験から、アバターは単なる見た目ではなく、コミュニケーションのツールであり、自己表現の手段であるという認識が芽生えました。そして、「本当の自分らしさ」を表現できるアバターを探求する旅が始まったのです。

アバター探求と自己理解の深化

次に私が試みたのは、より現実の自分に近い、あるいは自分が「こうありたい」と願う姿のアバターを探すことでした。様々なクリエイターの方がBoothなどで販売されているアバターを試着したり、自分でアバターを改変することにも挑戦したりしました(当時はまだUnityやBlenderの操作に慣れておらず、非常に苦労しましたが)。

このアバター探しのプロセスは、自分自身の内面を深く掘り下げる作業でもありました。「どのような色が好きか」「どのような服装を好むか」「どのような表情をしたいか」といった外見的な要素だけでなく、「どのような自分でありたいか」「他者にどう見られたいか」といった、より根源的な自己認識と向き合うことになりました。

特に印象的だったのは、ある特定のアバターに「しっくりくる」と感じた瞬間です。それは、技術的に完璧なアバターである必要はありませんでした。しかし、そのアバターの見た目、雰囲気、そしてPhysBoneなどが設定された揺れ方といった細部が、自分の内面と不思議と一致する感覚がありました。そのアバターでVRChatにログインした時、初めて「これが私だ」と強く感じることができたのです。

アバターを通じた新しい自己表現とコミュニティ

「自分らしい」アバターを見つけてからは、VRChatでの体験がさらに豊かなものになりました。アバターに自信を持つことで、より積極的に様々なワールドへ出かけ、多様なバックグラウンドを持つ人々と交流するようになりました。

アバターは、現実世界ではなかなか見せられなかった自分の側面を引き出してくれました。例えば、現実では恥ずかしくて言えないような些細なユーモアを口にしたり、感情を少し大げさに表現してみたり。フレンドも、私のアバターを見て「あなたらしいね」「落ち着くね」といった言葉をかけてくれるようになり、アバターが私という存在そのものを表現する一部として認識されていることを実感しました。

また、アバター制作や改変という技術的な側面に触れたことも、私のVRChat体験を深めました。自分の理想のアバターを形にするために、UnityやBlenderの学習を始め、VRChatコミュニティにいるエンジニアやクリエイターの方々に助けていただきながら、少しずつ技術を習得していきました。この過程で得たスキルは、VRChat内だけでなく、現実世界での私のキャリアにも影響を与えることになります。新しい技術に抵抗なく向き合う姿勢や、オンラインコミュニティでの協調性は、今の仕事にも活かされています。

現実世界へのフィードバックと、二つの世界の繋がり

VRChatでのアバターを通じた自己表現と、そこから得られた他者からのフィードバックは、現実世界の私の自己認識にもポジティブな影響を与えました。VRChatで「自分らしい」姿で肯定された経験は、現実でも「このままでいいんだ」という自信に繋がりました。

以前は初対面の人と話すのが苦手でしたが、VRChatで様々なアバターを通して多くの人と関わった経験から、相手の外見に囚われず、その人自身の内面に目を向けること、そして自分も臆することなく内面を表現することの大切さを学びました。これは、現実世界での人間関係をより円滑にし、新しい友人を作る上でも非常に役立っています。

VRChatと現実世界は、しばしば対比されますが、私にとってこれらは完全に切り離されたものではありません。VRChatで得た経験や学びは現実世界にフィードバックされ、現実世界での自己認識やスキルがVRChatでのアバターを通じた活動に影響を与えます。アバターは、二つの世界を結びつける架け橋のような存在になりました。

まとめ

VRChatにおけるアバター体験は、私にとって単なるエンターテイメント以上の価値を持っています。それは、自分自身の内面と向き合い、新しい自己表現の方法を学び、他者との深い繋がりを築くための強力なツールでした。アバターは、私に「もう一人の自分」を与えてくれ、その存在を通して現実世界をも豊かにしてくれたのです。

これからも、VRChatの世界で様々なアバターと出会い、自分自身のアバターを通して、まだ見ぬ自分を発見していく旅を続けていきたいと考えています。