VRChatでのアバター制作が拓いた、現実世界での表現の地平
現実と仮想、そして表現の模索
私がVRChatの世界に足を踏み入れたのは、数年前のことになります。現実世界では極めて内向的で、自分の考えや感情を率直に表現することに苦手意識を抱えていました。特に、人前で「自分らしさ」を出すことへの抵抗感が強く、どこか周囲に合わせてしまう傾向がありました。VRChatも当初は、現実逃避の一種として、見知らぬ誰かになれる場所に魅力を感じていました。
最初は既製のアバターを着て、ワールドを巡ったり、他の方とお話したりする日々でした。しかし、次第に「このアバターは自分ではない」という感覚や、「もっとこうだったらいいのに」という小さな違和感が募り始めました。そこで、ふと、自分でアバターを作ってみようと思い立ったのです。それが、私のVRChat体験、そして現実世界の自己認識に大きな変化をもたらす第一歩となりました。
ポリゴンと向き合い見つけた自己の片鱗
アバター制作は想像以上に大変でした。Blenderでのモデリング、Unityへのインポート、ボーン設定、テクスチャの調整、そしてシェーダーの設定など、覚えるべき技術は膨大でした。当初は、見慣れない専門用語（例えば、リグ、UV展開、マテリアル、Skinned Mesh Rendererなど）や、エラーの連続に何度も挫折しそうになりました。しかし、一つ一つ課題をクリアしていく過程で、単に技術を習得するだけでなく、自分自身と深く向き合うことになったのです。
「どんなアバターを作りたいか？」という問いは、「どんな自分になりたいか？」「どんな自分を表現したいか？」という問いに直結しました。現実世界では無難な服装を選びがちだった私が、仮想空間ではどのような色、形、質感を自分に纏わせたいのか。自分の内面にある「こうありたい」という漠然としたイメージを、ポリゴンやテクスチャという具体的な形に落とし込んでいく作業は、自己探求そのものでした。
特に印象的だったのは、アバターの表情や動きを設定する作業です。細かな仕草や感情表現をどのようにアバターに落とし込むか考える中で、自分が普段どのような感情の機微を持っているのか、あるいは無意識に抑圧している感情があるのか、といった点に気づかされることが多々ありました。例えば、現実ではあまり笑顔が得意ではない私が、VRChatのアバターでは自然な笑顔を表現できるように調整することにこだわったことは、私にとって内面的な変化の現れだったのかもしれません。
VRChatでの自己表現と、現実への波及
完成したアバターをVRChatで使うようになったとき、これまでとは全く違う感覚を覚えました。それは、単に新しい見た目の自分になったという以上に、「このアバターは紛れもない自分自身が創造し、自分の内面を反映させたものだ」という強い実感でした。そのアバターを介して他の方と交流する中で、より自然体で、自分の考えや感情を表現できるようになっていったのです。現実世界での自己表現の苦手意識が、仮想空間では薄れていくのを感じました。
このVRChatでの経験は、徐々に現実世界にも影響を及ぼし始めました。VRChatで「自分らしい」と思える表現ができた成功体験は、現実世界での自信に繋がりました。以前は敬遠していた自分の好きなものをオープンに話せるようになったり、会議で自分の意見を臆せず発言できるようになったり、あるいは服装や髪型など、外見においても「自分が本当に好きなもの」を選ぶ勇気を持てるようになりました。
また、アバター制作を通じて得た技術や、コミュニティでの交流を通じて学んだコミュニケーションスキルは、現実世界のキャリアにも間接的ながら良い影響を与えています。新しい技術を学ぶことへの抵抗感が減り、様々な分野の人と協力して一つのものを作り上げる面白さを知ることができました。
表現の地平は広がる
VRChatでのアバター制作は、単なる趣味の範疇を超え、私にとって自己理解と自己表現を深めるための重要なプロセスとなりました。仮想空間という安全な場で、自分の内面と向き合い、それを形にする経験は、現実世界での生き方にも確かな変化をもたらしています。
VRChatの世界は常に進化しており、新しい技術や表現手法が次々と生まれています。これからもアバター制作を通じて、まだ見ぬ自分の一面を探求し、現実世界での表現の地平をさらに広げていきたいと考えています。この体験が、読者の皆様にとって、VRChatやその他の創造活動を通じた自己探求の一助となれば幸いです。