私のVRChat体験記

国境を越えたVRChatでの出会いが、私の固定観念をどう打ち破ったか

Tags: VRChat, 異文化交流, 国際交流, 人生観, 多様性

VRChatがもたらした予期せぬ異文化への扉

私がVRChatを始めたのは、現実世界での人間関係に少し疲れを感じていた時期でした。当初は日本のユーザー同士で共通の趣味を持つコミュニティに参加し、アバターを介したコミュニケーションの新鮮さを楽しむ日々でした。特定のワールドを巡り、気の合う仲間と談笑したり、イベントに参加したりすることが主な活動でした。この時点では、VRChatはあくまで国内向けの、特定の趣味を深めるためのツールという認識でした。

しかし、ある日、偶然訪れたパブリックワールドでの出来事が、私のVRChatに対する認識を大きく変えることになります。そのワールドは、世界中の様々な言語を学ぶ人々が集まる「Language Exchange」ワールドでした。それまで、海外のユーザーと交流することに特に興味はなく、自身の英語力にも自信がなかったため避けていました。しかし、その日は好奇心に駆られ、試しに入室してみたのです。

そこには、想像以上に多様なアバターが集まっていました。英語圏、ヨーロッパ、アジア、南米など、様々な地域からアクセスしていると思われる人々が、それぞれの言語で、あるいは拙い共通言語でコミュニケーションを図っていました。最初は物陰から様子を伺っているだけでしたが、一人のフレンドリーな海外ユーザーが私のアバターに近づき、片言の日本語と英語を交えながら話しかけてくれました。

言語の壁を超えて見えた世界

そのユーザーとの最初の交流は、決して流暢なものではありませんでした。私は翻訳ツールを使い、相手は身振り手振りや簡単な単語を駆使してくれました。しかし、その「伝えよう」「理解しよう」とする mutual effort(相互の努力)の中に、国籍や言語の壁を超えた温かい繋がりを感じたのです。この経験が、私にとってVRChatでの異文化交流への第一歩となりました。

それ以来、私は積極的にLanguage Exchangeワールドや、海外のユーザーが多く集まるパブリックワールドに足を運ぶようになりました。様々な国の人々と触れ合う中で、私は自身の内にあった無意識の固定観念に気づかされました。例えば、「〇〇国の人は皆こうだ」といった漠然としたイメージや、「外国の文化は自分たちとは全く違うものだ」という一方的な見方です。

具体的なエピソードとして印象深いのは、あるヨーロッパのユーザーとの議論です。彼との会話の中で、私は自身の文化的な背景に基づいた特定の価値観について語りました。すると彼は、同じテーマに対して全く異なる視点から意見を述べたのです。最初は戸惑い、「なぜそう考えるのだろう?」と理解に苦しみました。しかし、彼がそのように考えるに至った個人的な経験や、育ってきた社会環境について詳しく話を聞くうちに、彼の視点にも確かな理由があることが分かりました。その時、自分の見ていた世界がいかに狭かったのか、そして一つの事柄にも多様な解釈や価値観が存在することを痛感したのです。

多様な価値観との出会いがもたらした内面的な変化

VRChatでの異文化交流は、私の内面にいくつかの重要な変化をもたらしました。最も大きな変化は、多様な価値観に対する受容性が飛躍的に高まったことです。以前は、自分の知っている範囲や常識から外れるものに対して、少なからず抵抗感がありました。しかし、VRChatで様々な背景を持つ人々と深く関わる中で、異なる考え方や文化に触れることが、自己の視野を広げ、新たな発見をもたらす貴重な機会であると認識するようになりました。

また、自己理解も深まりました。異文化を持つ他者との対話は、自身の文化や価値観を相対化し、なぜ自分が特定の考え方をするのか、何が自分にとって重要なのかを改めて考えるきっかけを与えてくれました。アバターという仮想の身体を介しているからこそ、現実世界での立場や肩書きに縛られず、より本質的な部分で他者と向き合えたのかもしれません。

さらに、コミュニケーションスキルも向上しました。言語の壁がある中で意思疎通を図るためには、言葉以外の表現(ジェスチャー、表情、アバターの動き)や、分かりやすい言葉を選ぶ工夫が必要です。また、相手のバックグラウンドを想像し、配慮しながら話すことも学びました。これは、現実世界での人間関係においても非常に役立つスキルだと感じています。

VRChatでの体験が現実世界にもたらした影響

VRChatでの異文化交流は、仮想世界に留まらず、私の現実世界にも確かな影響を与えています。まず、国際的なニュースや出来事に対する関心が高まりました。VRChatで知り合った人々の出身国で何か大きなニュースがあると、個人的な繋がりがある分、以前よりも真剣にその背景や影響について考えるようになりました。これは、単なる情報としてではなく、そこに暮らす人々の生活に関わる出来事として捉えられるようになったからです。

次に、現実世界での人との関わり方にも変化がありました。例えば、職場や友人との会話の中で、自分とは異なる意見を持つ人に対して、以前よりも耳を傾け、その背景にある考えを理解しようと努めるようになりました。これはVRChatで培った「異なる価値観を受容する姿勢」が自然と現実世界にも現れた結果だと感じています。固定観念に囚われず、多角的な視点から物事を捉えることの重要性を実感しています。

キャリアの面でも、グローバルな視野を持つことの重要性を以前より強く意識するようになりました。特定の技術や文化が、国境を越えてどのように共有され、影響を与え合っているのかに関心を持ち、自身の専門分野においても、より広い視点で情報収集や学びを進めるようになりました。

終わりに

VRChatでの異文化交流体験は、私の人生観を根底から揺るがし、大きく広げてくれた貴重な経験です。単なるゲームやエンターテイメントとして始まったVRChatが、これほどまでに深い学びと内面的な成長の機会を与えてくれるとは、想像もしていませんでした。

仮想空間で国境を越え、多様な人々と出会い、異なる文化や価値観に触れることは、自身の固定観念を打ち破り、世界を多角的に見るための強力な訓練となりました。VRChatは、アバターというフィルターを介して、人種、国籍、文化といった現実世界の属性から一時的に解放されつつも、それぞれの個性を尊重し、深い人間的な繋がりを築くことが可能なユニークなプラットフォームであると改めて感じています。

これからも、VRChatでの新たな出会いを通じて、自身の視野を広げ、豊かな人生を送っていきたいと考えています。