VRChatで培われた技術への好奇心が、現実の学習習慣に火をつけた経験
VRChatと出会う以前、私は特定の目標がない限り、自ら進んで何かを深く学ぶという習慣をあまり持っていませんでした。学生時代の学習はどちらかといえば受動的であり、卒業後も仕事に必要なスキルは習得するものの、それ以外の分野で強い知的好奇心を持つことは稀でした。しかし、VRChatというプラットフォームに足を踏み入れたことが、私の学習に対する姿勢そのものを大きく変容させるきっかけとなりました。
VRChatとの出会いと技術への漠然とした興味
私がVRChatを始めたのは、純粋な好奇心からでした。様々なワールドを探索し、個性的なアバターをまとった人々との交流は刺激的で、すぐにこの仮想空間の多様性に魅了されました。当初は、既成のアバターを選び、公開されているワールドを巡るだけの一般的なユーザーでした。
しかし、VRChatに慣れ親しむにつれて、「このアバターはどうしてこんな動きをするのだろう？」「このワールドのこのギミックはどうやって作られているのだろう？」という疑問が芽生え始めました。特に、凝ったカスタムアバターや、インタラクティブな要素を持つワールドに触れるたびに、その背後にある技術への漠然とした関心が膨らんでいきました。
好奇心を具体的に満たすための技術的挑戦
その好奇心は、やがて「自分でも何かを作ってみたい」という欲求へと変化しました。手始めに簡単なアバターの改変に挑戦しましたが、そこで初めてUnityというゲーム開発環境に触れ、ボーン構造やマテリアルの設定といった専門用語に直面しました。最初は戸惑いましたが、「自分のアバターをこうしたい」という明確な目的があったため、インターネットで情報収集を始めました。
チュートリアル動画を繰り返し見たり、先人たちのブログ記事を読んだりするうちに、Unityの基本的な操作や、アバターの仕組みの一端を理解できるようになりました。Shader（シェーダー）を用いてアバターの見た目をカスタマイズする技術に触れた時は、まるで魔法のようで、その表現力の豊かさに驚きました。Shaderのノードを繋いでいく作業は、最初は難解でしたが、試行錯誤の末に思い描いた表現ができた時の達成感は格別でした。
さらに、ワールド制作にも興味を持ち、UdonというVRChat独自のプログラミング言語にも挑戦しました。初期のUdonは情報も少なく、エラーとの格闘の日々でしたが、「このスイッチを押したら何かが起こる」といった単純なギミックが実現できた時の喜びは、複雑な問題を解き明かす探求心へと繋がりました。これらの技術的な挑戦は、単なるVRChat内での活動に留まらず、「分からないことを自分で調べて理解する」「試行錯誤を繰り返して解決策を見つけ出す」という、能動的な学習のプロセスそのものを私に教えてくれました。
現実世界への学習習慣の波及
VRChatでの技術習得は、現実世界での私の学習習慣にも決定的な影響を与えました。以前は専門書や技術記事を読むことに抵抗がありましたが、VRChat関連の技術情報を漁る中で、抵抗感は薄れていきました。むしろ、「もっと深く知りたい」「もっと効率的な方法があるはずだ」という探求心が強まり、技術ドキュメントを読むことや、関連する基礎知識（例えば3Dモデリングのための数学的知識、プログラミングの基本概念など）を体系的に学ぶことにも意欲が湧くようになりました。
この変化は、仕事においてもプラスに働きました。新しいツールや技術が導入された際、以前よりも積極的にその仕組みを理解しようと努めるようになり、習得スピードが向上しました。また、問題が発生した際に、原因を切り分け、様々な角度から解決策を探るというVRChatで培ったアプローチが、現実の業務における課題解決にも役立つことを実感しています。
趣味が育てた知的好奇心と探求心
VRChatは単なる遊び場ではなく、私にとって知的好奇心を満たし、探求心を育む学びの場となりました。アバターやワールドという具体的な「作りたいもの」があったからこそ、技術習得という一見ハードルの高い作業も、楽しみながら取り組むことができました。コミュニティには、惜しみなく知識を共有してくれる人々がおり、彼らとの交流も学びを深める上で非常に重要な要素でした。
現在も、VRChatでの活動を通じて新しい技術に触れ、それが現実世界での学習や仕事に繋がるという良い循環が生まれています。VRChatで培われた「どうなっているんだろう？」「自分ならどう表現できるだろう？」という純粋な好奇心と、それを満たすための能動的な探求心こそが、私の人生における学習習慣を根本から変容させた最も大きな要因であると確信しています。